JIDnews 270

JIDnews は、公益社団法人 日本インテリアデザイナー協会が発行する機関誌です。

メンバーズSALON

魅力的なウィーンとプラハに見る
ユーゲント・シュティール(世紀末様式)

西日本エリア 副エリア長 安藤眞代



美しいカールス・プラッツ駅


大理石の石版がボルトで固定されていて、画期的


今なお、100年前の建物と思えない
新鮮さを感じる郵便貯金局


かっこいい暖房の吹き出し口。
こういうディテールまで全部こだわって
デザインしいるのですね。




マジョリカハウス(Majolikahaus)
1899年に完成した集合住宅


一棟はメダイヨンハウスと呼ばれています


セセッシオン(分離派)会館。
月桂樹の葉による球形(通称「金のキャベツ」)は
セセッシオンのシンボル


フンデルトヴァッサーハウス


ケントハウス








プラハのアール・ネーヴォーで1911年に出来た
市民会館建物


「黄金のプラハ」
プラハ最古の橋「カレル橋」と、その後ろに見える
中世ヨーロッパの美しいプラハ城


中世を感じると言われる「黄金の小路」




 毎年9月に行われるロンドンインテリアデザインフェステバルへの渡英に合わせて、 今年は魅力的なウィーンとプラハに足を延ばしました。
ウィーンは音楽の都であると同時に、近代建築デザインの宝庫です。街を歩けばゴシックやバロックの建築に混じって、様々なユーゲント・シュティール建築が見られます。

 ウィーンの世紀末時代の建築分野の開拓者、オットー・ワーグナーが生み出した幾何学的なユーゲント・シュティールの建築は、明快なラインによるシンメトリックな外観を示し、機能的でしかも大変エレガントです。
市内中心地にある、大理石と金色の縁取りで大変美しいカールス・プラッツ駅も彼の設計です。
二つのパヴィリオンは向かい合って同じ駅舎があり、現在は一棟はカフェ、もう一棟は資料館になっています。この建物がすごいのはデザインばかりではなく、1900年当時、建築の世界ではまだ新しい素材だった鉄とガラスをふんだんに使っている事です。
また彼は、シュタットバーン(市営鉄道)の設計責任者でもありました。 ワーグナーはこの鉄道がウィーンの町の景観に対する大きな貢献となるものと考え、鉄道本体だけでなく、他にも鉄橋や高架線のデザインや、手摺、照明灯、案内板、文字等の小物にも細かい注意を払って、鉄道全体として総合デザインという考え方を実現させました。駅舎の回りにある全てが統一感のある優美なデザインになっていました。ワーグナーはウィー ンの市営鉄道網の30以上の駅舎を設計したということです。

 ウィーンの中心地は市電が張り巡らされ、主要な場所には自由に移動が出来ます。 郵便貯金局も場所を余り詳しく調べず市電に乗っていたのですが、その大きな建物を発見し、すぐ次の停留所で降りました。
この様に自由に乗り降り出来るのもウィーンの市電の良さです。
この郵便貯金局の特徴は、外壁が大理石の石版がボルトで固定されており、そのボルトが外壁の模様を描き出し、大変モダンな現代建築ぽく、とても100年も前の建物とは思えません。石を積み上げるのが当たり前だった西欧建築において、画期的な建築法だったとの事です。
内部は現在も郵便貯金局として使われていて、広い中央ホールのガラス張りの天井から燦々と光が降り注いでいます。ガラス製の天井や鉄筋コンクリート、アルミなどの新素材を取り入れた、当時は画期的だったのが見て取れます。
今回のウィーンで一番見たかったのは、美大時代、美術書にあった外壁の花柄が美しいマジョリカハウスです。こんな建物が実際にあるのかと、当時写真をまじまじ見ていた事が思い出されます。これはワーグナーが1899年に完成させた集合住宅で、外壁にマジョリカ焼きのタイルを貼って赤い花模様を描きました。このタイルを使った理由は色褪せしないからだそうです。
確かに100年以上経ってもこの建物は鮮やかな色彩で存在感を示しています。
隣のもう一棟はメダイヨンハウスと呼ばれています。呼び名の由来は外壁を飾る9個の大きな金メダルです。金色を使うのはやはりユーゲント・シュティールならではの特徴ですね。
完成当時は保守的な市民からの反発が強く、このように華やかな装飾が描かれた集合住宅がほかに造られることはなかったという事です。
ワーグナーはこうした美しい建物を並べてシャンゼリゼ通りのような目抜き通りを作りたかったのだそうですが、その夢は叶わず、今ではぽつんと2棟が並んで建っているのみです。
それでも、100年たった今も集合住宅として実際に使用され、その美しさが色あせないこの建物をみるだけで、幸せな気持ちになりました。
そこから、近い所にセセッシオン(分離派)会館もあります。遠くからも象徴となるシンボルの月桂樹の葉による球形(通称「金のキャベツ」)が見えます。インパクトは相当あります。完成当時、この建物は市民の間で大きな論議を呼び起こしたと言うのもうなずけます。

 ユーゲント・シュティール建築ではないのですが、ウィーンにはインパクトのある建物が他にもあります。フンデルトヴァッサーハウスと、ケンストハウスです。
フンデルトヴァッサーは、ウィーン生まれの芸術家で、自然を愛するがゆえに直線を嫌い、絵も建築も曲線ばかりをつかって制作したこだわりの人です。彼がつくった床も壁も天井もぐにゃぐにゃしています。ウィーンの街のクラシカルな建物とちがう色かたちなのに、なぜか街になじんでいる不思議な集合住宅です。
専門家の中には悪趣味だという意見もあったそうですが、当時入居希望者が殺到し大評判となったそうです。

 今回は早朝に電車で5時間のところにある、大変美しい街とされる、プラハにも足を延ばしました。
街全体は大変コンパクトで、ほぼ歩いて制覇出来ます。メインとなるのは、約600年前から現存しているプラハ最古の橋「カレル橋」と、その後ろに見える中世ヨーロッパの美しいプラハ城。そこに行く前に通る、中世を感じると言われる「黄金の小路」旧市街並みも風情があり、タイムスリップしたかの様な感じになります。
建築は、プラハにおけるアール・ヌーヴォー建築の代表的傑作の、市民会館は世界最高レベルと言える規模と保存状態を誇っています。内装も大変すばらしいです。
チェコ語で書かれた文字があちこちにあり、それが雰囲気を醸し出しています。
プラハは、モーツァルトやカフカ、ミュシャなど多くの芸術家もこの地を愛したと言われていますが、美しい街づくりに力を入れたと言われる「黄金のプラハ」は、心に残る裏切らない美しい景観でした。

 今回は、その後の建築に大きな影響を与えたユーゲント・シュティール(世紀末様式)建築を、たっぷり間近で見る事が出来ました。
そして全ての建物が使われながら美しく保存されている事に、大変驚かされました。 伝統に誇りを持ち、100年前のものを人々が大切に共存していける環境は、少しうらやましくも感じたのでした。