JIDnews 274

JIDnews は、公益社団法人 日本インテリアデザイナー協会が発行する機関誌です。

『木材を使った家具のデザインコンペ2016』報告書

JID西日本エリア 理事 牧尾 晴喜

●概要







インテリア業界の活性化と日本のデザインの世界への発信、また、若手デザイナーの育成を目的として、「木材を使った家具」をテーマにしたコンペを開催しました。針葉樹や広葉樹など各素材の特性を活かした作品を公募しました。審査員は、内藤廣さん(建築家・東京大学名誉教授)、小泉誠さん(家具デザイナー)、永山祐子さん(建築家)、喜多俊之前JID理事長、の4人。Living&Designが主催であった昨年につづき第2回目で、今年はJID西日本エリア特別事業としての開催です。
6月の募集開始から8月の応募締切までに、139件のエントリーがありました。入賞・入選作品15点は、大阪のデザイン見本市『Living & Design』で2016年10月12~14日、また、若手建築家の展覧会『U-35』(同17日)でも展示されました。多数の来場者が足をとめ、熱心に作品パネルに見入っていました。
また、Living&Design会場にて授賞式ならびにU-35会場にて受賞者をまじえたミニフォーラムも開催しました。フォーラムでは喜多前理事長にモデレーターをしていただきました。入選者からは「かなり座りにくい椅子になっています」など、コンペならでは(?)の作品解説もあり、デザイン・ものづくりや広報などさまざまなヒントに満ちた話が満載の楽しい場となりました。
また、コンペ開催から結果発表、イベント報告にいたるまで、ジャパンデザインネット(JDN)、アーキテクチャーフォト、公募ガイドなど多数のメディアに掲載され、大きな反響がありました。いまは海外メディアでの掲載、また、メーカーとのタイアップによる商品化検討などの準備を進めているところです。

主催:公益社団法人日本インテリアデザイナー協会
共催:大阪府地域産材活用フォーラム
  (事務局/大阪府木材連合会)
協力:LIVING & DESIGN実行委員会

●審査結果


グランプリ・小林国弘『Hammock Lace chair』
※作品はクリックで拡大します






金賞・野口直人『紙のような椅子』






銀賞・永野真義






銅賞・高橋賢治

【グランプリ・小林国弘】
『Hammock Lace chair』
柔らかな曲線を描く2つの木のフレームに紐を編み込んでできた、ハンモックのようなラウンジチェア。上のフレームからつるした紐と、下のフレームに取り付けた紐を編み込むことで、空中に浮かぶような座面と背もたれ。2つの木のフレームは回転できるように取付られており、折りたためる。

【金賞・野口直人】『紙のような椅子』
とてもうすい合板を、折ったり曲げたりするだけで形態と構造が成立する、紙と木材の境界に存在するような椅子である。薄い針葉樹の曲げ合板は、紙と木材のもつ両方の特性を備えている。繊維方向には強い引張力と少しの圧縮力があり、繊維と直交方向は紙のように柔らかく湾曲する。椅子自体の成り立ちからも、座るという椅子本来のもつ身体的な行為に近づくことができるのではないか。とても安価であり、薄く、簡単で、儚く、身近である。

【銀賞・永野真義】
子どもたちが学校生活のなかで一番長く目を向ける黒板にこそ、木素材を使ってはどうでしょうか?表面色の濃い木材であれば、十分に文字は読めます。天然素材の柿渋で少し着色を加え、濃いめの仕上げ色にすれば、まわりの木質壁と差別化できますし、「こくばん」より見やすい「もくばん」となります。また、集成材の圧着ラインがガイドとなるので、先生も文字をまっすぐに書きやすくなるでしょう。

【銅賞・高橋賢治】 しっかりと根を張った大木によじ登り、ごつごつした枝に腰かけた小さいころの思い出があります。細くて座り心地は心もとないが、折れそうで折れない、ふわふわとたわむ優しい木の感触を覚えています。その優しさを木の椅子で表現しました。木を制するのではなく、寄り添うような関係から木の暖かみが伝わってくる、その感触を人の心によびもどしたい。

【入選作品】
『Knocking Chair』 久保貴史、『座り心地に御記憶ありませんか』 内田祥士、『8va table(オッターヴァ テーブル)』 峯公一郎、『kumita』 野田直希、『飛び込み台』 高橋梢、『寄り添う棚』 安川流加、『inside out』 佐藤邦彦、『座面のない椅子』 中川エリカ、『Little light』 楊子卓、『oyaco』 戸田舞子、『おとばこ日美器』 平塚一弘

●審査員講評



【内藤廣】(建築家・東京大学名誉教授) 
鉄やコンクリートにくらべて木は柔らかい素材です。力学的には、異方性、つまり繊維方向とそれと直角方向の特性が極端に異なる素材です。一方で熱伝導率はとても低い。だから手に触れた時に温かい感じがするのです。視覚的にも自然を連想させ、心を和ませてくれます。うまくこれらの性質を活かせば、人の暮らしの中に使われる身近な素材としてこれに勝るものはありません。これらの性質をどのように生かすかがアイデアの出しどころです。 上位に残った作品は、どれも木の性質を熟知し、うまく使いこなしています。グランプリのハンモックは、木の軽さと繊維方向の強さをうまく利用したものです。金賞の椅子は、木の異方性を巧みに引き出したものです。銀賞の木盤は、弾力性と視覚的な効果を活かしています。銅賞の柔らかな背もたれを持った椅子は、木の靭性を活かしています。



【小泉誠】(家具デザイナー)
前回に引き続き審査をさせていただきました。応募数も増え、針葉樹に限らず広葉樹も可となったせいか、プロダクトの枠を超え、環境形成や活動的な作品が複数応募されていたのが特徴的で興味深いものでした。ただ、条件が広がったために「木」に向かい合う気持ちが薄れてしまい「木」ではなくても実現可能で、場合によっては他素材の方が適切ではないかという不健康な作品も多く見られました。そんな中、受賞された作品は、木に向かい合い、多角的な思考を持ち、心に伝わる家具でした。



【永山祐子】(建築家)
今回の応募作品は様々なシチュエーションを想定した多岐にわたる提案が多いのが印象的であった。意匠性に加え、家具と人、家具と空間、家具と街とのあり方に対して新しい提案をした作品が高く評価された。グランプリの「Hammock Lace chair」は美しい造形に加え、折りたためるという機能性も持つ軽やかさが印象的であった。金賞の「紙のような椅子」は薄い1枚の合板を折り曲げてできるシェル構造によって成立させるという単純な構成と美しい造形に驚かされた。銀賞の「もくばんプロジェクト」は学校の黒板という固定化されたモノの素材を変え、新しい価値を見い出したところが面白かった。銅賞の「柔らかな椅子」は木ならではのしなりを使い、人の身体に添い、訴えかけるような椅子が魅力的であった。今回の賞を通して私自身も家具の在り方をもう一度考える良いきっかけとなった。



【喜多 俊之】(プロダクトデザイナー、
        LIVING & DESIGN総合プロデューサー)
木材を使った家具デザインコンペは、2回目を迎えました。第1回目は、針葉樹をテーマにユニークな作品が選定され、更に今年は広葉樹を加えて、広く木を主材料とした家具コンペの開催となりました。次世代に向かって、オリジナリティの高い作品が数多く集まりました。伝統的な構造や工夫を凝らしたデザインが多かった中で、新しい時代に挑戦した作品の中から最終的に入賞、入選の対象が選定されました。審査員全員で、広く世界に発信できる日本のオリジナルデザインが誕生する事を期待しています。