JIDnews 268

JIDnews は、公益社団法人 日本インテリアデザイナー協会が発行する機関誌です。

interior TREND

ミラノサローネ2015 視察を終えて

北・東日本エリア 篠崎恭子

今年で54回目を迎えたミラノサローネは、今日においてインテリアデザインの最先端を牽引してきた最も権威のある家具見本市である。心地よいミラノの風を肌で感じることのできる4月、世界中から310,840人の来場者が訪れ、世界最大のインテリアビジネスの場として、ミラノの街全体が大いに盛り上がった。2015年の見本市全体を通したテーマは「物語」。デザインの世界は21世紀に入り、革新的な技術や、イメージした形状を可能にする新素材など多くの情報を得ることで、飽和と疲弊を迎えるようになった。日常には物が溢れ、廃棄されていく様は、私たちの想像を遥かに超えて、環境への影響、つまりは私たちの生活への影響が懸念された。その時代背景を受けて、企業やデザイナーたちは、相反する場所に存在していた原点回帰の美しさに惹かれていった。もちろん、新商品を発表する場でもあるのだが、既存のコレクションを少しずつブラッシュアップして、よりプロダクトの精度を追随しているデザイナー。「旅」の経験から多くのインスピレーションを受けてプロダクトを創りだすデザイナーなど、多くの「物語」を感じる見本市であった。

主催者側が発信するトレンドカラーは、非常に興味深いものであった。インテリアはファッションと連動し、その関係性は密接なものになってきている現在、2015年の流行色として取り上げられていた「MARSARA(マルサラ)」は、イタリア・シチリアが世界に誇る酒精強化ワインから連想された色。やや酸化したような赤みのある明るいブラウンは、ミラノサローネでも注目されたカラーであった。ソファのファブリックとして、またテーブルコーディネートのアイテムとして多くのシーンで見受けられるものであった。

もうひとつは、まるでミラノの夜中のような「Night blue」が注目だ。夜、ホテルで休もうとすると、まだ窓の外ではトラムが走る音が聞こえ、そっと窓を開けたときの夜中のミラノ。オレンジ色の街灯の光との調和からか、少し黄みがかった紺色の空はとても美しい。そんなブルーは、ベルベット調の起毛が掛かったファブリックを空間に優しく調和させているコーディネートとして、多くのブランドから発表されていた。

また、出展企業も多様化している中、近年、顕著な活躍を見せるのが北欧のブランドだ。イタリアンモダンとは一線を画した独自のデザインフォルム、カラーコーディネートは、新しいデザインのバリエーションとして確立したものとなった。以前からも多くの北欧企業が出展をしていたが、優しく包まれるようなフォルムは、以前の北欧デザインのイメージに加え、ネクストデザインとして、世界中から愛されている。

スペインのデザインも非常に活力があった。ミニマルなラインや、情熱的なカラーコンビネーション、小気味よいバランスが特徴的だ。アウトドアファニチャーが多く、国民性を感じられるのもミラノサローネの醍醐味である。

そして、イタリアンデザインは、常にインテリアのハイエンドに位置し、確固たるデザイン力と技術力を感じることができる。ミラノサローネの会場であるフィエラに出展している企業で、注目度が高いのは「MOROSO(モローゾ)」だ。トップデザイナーを数多く起用し、多岐にわたるアアプローチを展開している。ひとつひとつのデザインは、オブジェのようであり、トップデザイナーたちのコンセプトの組み立て方は非常に興味深いものであった。RON ARAD(ロン・アラッド)のソファは、道路に捨てられた古いマットレスがクタッと壁にもたれ掛かっている様子からインスピレーションを受けたようだ。最高の技術を使って、斬新なソファが提案された。

また、PAOLA NAVONE(パオラ・ナヴォーネ)の世界観を存分に感じることのできる「GERVASONI(ジェルバゾーニ)」は、翌年に向けて新しいプロダクトを準備している段階ではあるが、既存商品に新しいカラースキームを配することで、より洗練された空間コーディネートを展開した。ピンク&パープルのファブリックが今までにないフェミニンな空気を創りだした。同様に「BAXTER(バクスター)」の最高のレザーで作られたデザインも秀逸だ。

サローネ会期中は、ミラノの街全体がインテリアのフェア会場として大きく盛り上がる時期でもある。「FUORI SALONE(フオリサローネ)」というイベントとして、さまざまなトップブランドが参加している。VIA DURINI に位置する「B&B ITALIA(ビー・アンド・ビー・イタリア)」は、世界最高峰のブランドと言えるだろう。PATRICIA URQUIOLA(パトリシア・ウルキオラ)の新作ソファ「BUTTERFLY(バタフライ)」は、ウィンドウに並べられ、アームと背部の連結部がチョウチョのシルエットのようになることから名付けられたという。ボリュームのあるフォルムが特徴的だ。世界最高のデザイナーと称されるANTONIO CITTERIO(アントニオ・チッテリオ)は、2012年に発表されたソファの脚部ディテールを3度修正し、プロダクトの完成度を求めているという。実際にショールームでも、入念に自身デザインの商品をチェックしている姿を見ることができた。

また、「PAOLA LENTI」は、進化したデザインプロセスを感じさせるものであった。テキスタイルとファニチャーのコーディネートは非常に美しく、常に新しいアプローチを感じさせてくれるブランドのひとつだ。今回は、「ONSEN(オンセン)」は、まさに日本の温泉からインスピレーションを受けたもの。大きいジャグジーの横で寛ぐ姿が目に浮かぶようであった。また、アウトドアファニチャーのコレクションも色彩豊かで、その合わせは非常に素晴らしい。また、ファッションデザイナー、ANTONIO MARRAS(アントニオ・マラス)とのコラボレーションプロダクトも発表され、さらに新しい世界観を創成した。

2015年、ミラノではまさに世界を「旅」するような、「物語」を体感し、デザインが世界に発信する力は魅力的なものであった。そしてトップデザイナーが、少しずつブラッシュアップする作業はまるで職人のようで、デザインをすることの責務を深く理解することができた。また今後も多岐にわたる多角的なアプローチで、人々のライフスタイルに貢献していくであろうミラノサローネは、絶大であるということを強く確信できた。