JIDnews 276

JIDnews は、公益社団法人 日本インテリアデザイナー協会が発行する機関誌です。

interior TREND

ベルリンのモダニズム集合住宅

西日本エリア長 安藤眞代

 毎年訪れる4月のミラノサローネ後に、今回は今熱いとの噂を聞いた、ドイツ、ベルリンに行きました。
 ベルリンには世界遺産に指定されているモダニズム集合住宅群が6ヶ所あります。設計に携わった人物にはブルーノ・タウト、ハンス・シャロウン、バウハウスの初代校長のヴァルター・グロピウスといった有名な建築家が名を連ねます。
この6つの公営住宅は建築物自体の評価はもとより、後に世界の集合住宅の様式にも大変影響を及ぼしました。
今回この中の2ヶ所の集合住宅に行くことができました。まだ東西に分裂していなかった時代、装飾を排除したモダニズム建築の時代に入っていました。ブルーノ・タウトとその仲間たちは一連の集合住宅群に新しいデザインで機能的な建物を生み出していきます。
ベルリンは20世紀になると人口が急激に増え、そのために労働者のための低所得者の公共住宅が建築されたのです。
西側にはすでに高級住宅地が広がっていたので、労働者たちの住宅は市の北側、東側、南側に建設されました。

 最初に行った「ジードルング・シラーパーク」(設計:ブルーノ・タウト)はモダンな箱型の住宅で破風屋根がなく、当時のベルリンではこの建設の際に初めて採用されました。住居は3階建で、各部屋にはバルコニーが付いた新しいデザインを取り入れ、外壁などはレンガ素材を活かした造りとなっていて、間近で見ても100年近く経っているとは思えない、モダンで芸術性の高い住宅でした。
建物は典型的なブロック型の閉じた配置とせずに、緑地とオープンスペースは半公共空間として計画されています。憩いの場、待ち合わせの場、子どもの遊び場などが全体コンセプトの中にはじめから組込まれていて、ランドスケープデザインが都市での集合住宅の設計と同じ比重で取扱われていたのは、この時代ではとても斬新だったとのことです。
中を少しガラス越しに覗いたのですが、階段ホールから壁面は当時のままのレトロな美しいタイル張りで、ベルリンは駅や街に、歩いていても大変タイル張りが多いと感じました。


モダニズム集合住宅群「ジードルング・シラーパーク」上空より
(設計:ブルーノ・タウト) (写真提供:Berliner/UNESCO)



「ジードルング・シラーパーク」住居は3階建で、
各部屋にはバルコニーが付いた新しいデザイン



外壁などはレンガ素材を活かした造り、
間近で見ても100年近く経っているとは思えない



階段ホール、壁面は当時のままのレトロな美しいタイル張り


 2ヶ所目に訪れた「ヴァイセ・シュタット」は、1929~31年にかけて建設された集合住宅で、ベルリンのライニッケンドルフ地区にあります。
ヴァイセ・シュタットとは、白い町(ヴァイセ→白い、シュタット→町)という意味で、その名の通り真っ白な建物が並んでいます。
他の集合住宅と異なり、25の店舗、託児所、診療所、カフェ、ランドリーといった施設が整備されていて、当時、公共団地のシンボルとして国際的にも大きな話題となったそうです。


1929~31年にかけて建設された集合住宅 「ヴァイセ・シュタット」


あえて建築費のかさむ石材を使わず、新建材としてその当時使われ始めた鉄筋コンクリートを駆使した、新しいデザインで機能的な建物でした。
部屋のタイプは家族構成に合わせて3種類。ワンルーム、2部屋、3部屋まであり、どのタイプにもキッチン・トイレ・バスルームを付け、低所得者用住居では当時画期的なことでした。1920年代以降に建てられた集合住宅には給湯設備や暖房設備まで整っていたとのことです。
たくさんの建物の屋根、窓枠、雨樋、入口の扉はとてもカラフルに色分けされており、ファサードの白とは対照的でとてもモダンでおしゃれな、見た目のデザインをとても重視したのであろうことがわかります。


新建材としてその当時使われ始めた、
セメントや鉄から成る鉄筋コンクリートを駆使した
新しいデザインで機能的な建物



カラフルに色分けされた屋根、窓枠



時代は少し後になる、建築界の巨匠ル・コルビュジエによって建てられた巨大集合住宅「ユニテ・ダビタシオン」にも、すこし郊外ですが建物内見学ツアーに参加できたので行ってきました。
コルビュジエは新しい都市のイメージを持っていて、その一つが街を垂直に作るということでした。
こうした考えを形とした「ユニテ・ダビタシオン」はヨーロッパ各地に建てられ、ここベルリンには1957年に建てられました。17階建てのこの建物はエントランス、エレベーターホールは地上にあり、住居は2階からになっています。
1階部分は机の脚のようなピロティになっていて、現在その空間は駐車場として使われています。
案内ツアーでは、ロビーで当時の写真を見ながら建設秘話を聞いたり、内部を見学できました。
1階にある公共のランドリールームには、小さい子供たちのコミュニテールームもあり、今でも家族連れにも大変人気があるとのことでした。
削ぎ落とされたモダンな内部と、計算されたカラフルな外観は60年前に建てられたとは到底思えない素晴らしい建築でした。


「ユニテ・ダビタシオン」
60年前に建てられたとは到底思えない素晴らしい建築



1Fの住居者の名前札 ほぼ満員です



シンプルに削ぎおとされた部屋の内部


ワンルームタイプ部屋のキッチン     ほぼ当時のままのキッチン


1Fにある公共のランドリールームには、小さい子供たちのコミュニテー ルーム


1階部分は机の脚のようなピロティになっていて、空間になっています。

 最後に、街中には建築中の建てものが沢山あり、ベルリン景気の良さが垣間見えます。
新しい建物で今回とても美しいと感じたのはベルリン中央駅。2006年サッカーのワールドカップ・ドイツ大会開催に合わせる形で開業した非常に近代的な駅です。
建物は地上3階、地下2階。建物中央部分が吹き抜け構造で、外からガラス越しに電車が走っているのが見えるのは圧巻です。
正面の大きなファサードは近くで見ても美しく迫力があり、建物全体が鉄骨とガラスでアール状にカーブした屋根からは、自然光が地階にまで降りそそぐなど、建築技術やデザインに感動しました。



ベルリン中央駅 ガラス張りの見事なファサードです


地上3階、地下2階の5層構造

際鉄道、ICEや近郊鉄道、郊外列車Sバーンさらに地下鉄(Uバーン)が乗り入れており、まさにベルリンの心臓とも言うべき駅で、またその周りも現在、建設が急ピッチで進められていました。  今のベルリンは、世界各地からさまざまなデザイナー・ミュージシャン・アーティスト・カメラマンなどのクリエイティブ系人材が増えつつあり、どこでも仕事がしやすく、物価も他の都市よりかなり安いとのこと。ベルリンの壁崩壊から28年しか経ってないのですが、ベルリンは今とても若者には住みやすい街になっています。私も今回初めて行ってみてとてもインスピレーションや、刺激を得られる街だと感じました。帰国後すぐにまた行きたくなってしまうベルリン〜まだまだ進化中のこの都市に目が離せない、本当に魅力的な都市でした。



ベルリンの駅には、改札はありません