JIDnews 282

JIDnews は、公益社団法人 日本インテリアデザイナー協会が発行する機関誌です。

名誉会員 中村圭介氏追悼

 

正会員 泉 修二

 さる1月27日中村圭介さんが亡くなられた。96歳とは云へ病床をご家族の介護のもとでインテリア史の研究を続けながらである。何時までもと思うものの、良い人生でもあったと申し上げたい想いもある。
 圭介さんのデザイン人生をJID賞を得られた「日本のインテリア100年」、家具の歴史館での「梶田恵回顧展」などを含めた史的研究、デザインと社会史の関係で日本近代を捉えようとした「文明開化と明治の住まい」などから史的研究者と観るむきも多い。しかもこれらの研究の合間に纏められた国会図書館(旧上野図書館)の美術工芸関係の書籍を自ら整理した分厚い目録を見ただけでもその指摘は正当でもあろう。しかしそれは単なる彼の一側面でしかないことを此処に記したい。
 府立工芸卒業の2年後、三越での戦中最後の展覧会に「家具及工芸品綜合展観(昭和17年)」というのがあった。もう家具も公定価格に縛られていたし、工芸自体も「戦時中何が工芸だ」という風潮の中でよくやれたと思う。工芸家の芹沢銈介なども参加していたからだろうがその中に、百貨店が其れまで追いかけてきた趣味的な方向とは違う「工場読書室」という創作があった。まだ二十歳にならない戦場に赴く前の彼の作品だ。敗戦翌年に中国から帰還した圭介さんの第1作(昭和23年)を画像としてここに載せた。

 

公定価格の椅子 
製作:(株)三越製作所 昭和23〜24年

セットに腰掛けた三越スタッフ
右端は中村圭介(JID66)、左端は河辺幸司(JID33)


戦後復刊の新建築にも掲載された作品だが、互平材を主体とした公定価格で売れる製品としてクッションを必要とするなら座布団を・・と考えたデザインである。いずれも日本人の生活に近代を取り込もうとする意図は明瞭である。
 デザインは社会的良心によってなされても、一般の人々に光明をもたらすよりは有産階級や政治権力によって貧乏人と富裕層の格差拡大に利用されたり、支配体制によって組み替えられるのが資本主義国家の傾向であろう。彼の経歴の中にデザイナーとしては珍しく全日本百貨店労働組合書記長の記述がある。三越とオープンショップ制組合との争議の流れの結果だが、圭介さんは其れらの運動の中で日本が太平洋戦の敗戦を機に法律は消滅したものの戦後も引きずっている明治民法後遺症からの脱出を含め、西欧の人々が血を流して勝ち取った欧米のデモクラシーや人権をも改めて学び直したのではなかろうか。
 1958年に出発した日本室内設計家協会(現日本インテリアデザイナー協会)へは創立時入会だが、理事長職2回は彼一人だけである。しかも一般的にはためらいがちな事務局、 財務職を主体に受け持ち、その間に職能団体として不可欠な基礎作りをおこなう。彼の開けっ放しの笑顔と恬淡とした答弁はそれだけで説得力を持った。進めた項目は憲法、著作権、標準仕様などだが、特に報酬規定の計画推進は特筆に値しよう。委員会での推進だから彼一人だけで・・とは言わないが、求心的な姿勢が60年後の今でも使用に耐えるものを作り出した功績は大きい。他団体などとの関係づくりなど語りたい項目は多いが、勲五等の受勲や国井喜太郎賞などが多くを語っていよう。今はご冥福を祈るばかりである。

      行を共にした幾つかの山々を思い出しながら。


中村圭介 略歴

1923年 東京市向島区(現在の東京都墨田区)に生まれる
1940年 東京府立工芸学校木材工芸科卒業
      (株)三越本店家具部設計室に入社
1953年 全日本百貨店労働組合書記長
1956年 中村デザイン事務所開設 住宅・事務所・商業施設の
     インテリア、量産家具の設計・技術指導、重文建築
     物の家具復元設計、並びに「家具の歴史館」の展示
     品収集の他、以下の役員を歴任
     団体役員:
       (社)日本インテリアデザイナー協会理事長
       (社)商業施設技術団体連合会副会長
       (社)店舗設計家協会(現JCD)理事
     教育:
       桑沢デザイン研究所(学校法人桑沢学園)講師
       職業訓練大学校(現職業能力開発大学校)講師
     研究: 小泉和子生活史研究所取締役

1969年 著作「日本のインテリア100年」でJID賞受賞
1983年 個展「省スペースの家具たち」小田急ハルクを開催
1994年 勲五等双光旭日賞(貿易振興)を受賞
2001年 第28回国井喜太郎産業工芸賞(永年の家具デザイン活
     動、デザイン団体育成、近代日本の家具史の研究・
     著作を通してデザイン発展に寄与)を受賞
主な著書 「住み良さの工夫」 新日本出版社、
     「日本のインテリア100年」日本のインテリアデ
     ザイン1 敬文堂 (共著 泉 修二)
     「文明開化と明治の住まい」 理工学社
主な作品 「ソファーベッド」カンツー第3回国際コンペ
     受賞 製作:イタリア現地
    「ダーツチェア」 製作:インテリアセンター
「ユニットかすみだな」 製作:内藤家具インテリア工業



 

リビングセット カンツー第3回国際家具設計競技受賞
1959年 製作カンツー現地

同左 ソファーベッド時の形態を表示

 

三角椅子
「内側からの提案」展・JID関西支部主催
昭和47年 製作:(株)秋田木工

ダーツチェアとテーブル
昭和60年 製作:(株)インテリアセンター

 
 

著書「文明開化と明治の住まい」暮らしとインテリアの近代史(上)の表紙 
平成12年理工学社発行