JIDnews 278

JIDnews は、公益社団法人 日本インテリアデザイナー協会が発行する機関誌です。

日本の意匠『温故知新』物語 第九話

「工学と感性の融合『音のデザイン』」

JIDデザインセミナー日本の意匠「温故知新」物語
プロジェクトリーダー 中野公力

 3月23日(金)、(株)GKデザイン機構 1階プレゼンテーションルームにおいて「日本の意匠『温故知新』物語 第九話」が開催されました。  
 今回のテーマは、現在注目されている「音」です。かつては川のせせらぎや虫の声、鐘の音や物売りの声など四季折々の「季節」や「時節」を音で感じてきた日本人。現在、静音性や遮音性が求められ、かつての生活の音を「騒音」と捉えることが多くなりました。これまでは騒音の「低騒音化」を目指してきましたが、それをさらに発展させ、「快適な音(快音)」に変えることで製品開発や環境への取り組みをする試みが進められています。今回のセミナーでは、文明化して失われつつある日本独自の「音」を意識し、私たちの「身近な生活空間」を切り口にデザインという視点から「音」を改めて考える機会と捉えました。

第1部の基調講演には、中央大学理工学部教授の戸井武司氏((一社)スマートサウンドデザインソサエティ代表理事)を講師として迎え、「スマートサウンドデザイン――「静音」から「快音」へ」と題してお話しいただきました。
現在、音を利用した環境は未成熟で、エンジニア(工学)とデザイナー(感性)に隔たりがあることを背景に、(一社)スマートサウンドデザインソサエティは設立されました。

音が人に与える感覚的な影響は様々で、例えば空調音の低周波は温かく、高周波は涼しく感じるといった体感温度の変化、車のドアが重厚な音がすればしっかりつくられていると感じるなど、ほとんど意識されない音は多く存在します。
それらを数値で解析して製品やものづくりに落とし込むのがエンジニアの仕事で、より心地よく自然に人が生活できる環境を構築するには、人の期待値を違和感なくコントロールすること。
また音の価値を向上させるために「音の商標登録(2015年から登録可能)」を支援するなど、スマートサウンドデザインの活動事例をご紹介いただきました。

 そのようなエンジニア視点でのお話の後、第2部では、前回『道具のはなし』でご登場いただいた(株)GKデザイン機構 取締役相談役の山田晃三氏((公社)日本インダストリアルデザイナー協会理事)を再びお招きし、今回は聞き手として、デザイナーとしての視点から戸井先生に質問をぶつけてもらいました。

 デザイナーはものづくりにおいて、五感を駆使してデザインするものの、基本的に視覚を相手にすることが多く、音(聴覚)を厳密に計算してデザインに落とし込むことはほとんどありません。しかし視覚は目を瞑って見ないようにすることができるけど、音は聞こえないようにすることは基本的にできない。
そういう意味でも音の重要さを改めて認識する機会になったと思います。

 山田氏からのいくつかの質問の後、今回は参加者の質問に多くの時間を割き、会場を巻き込んだ今までにない活発な意見交換がされました。
今後、エンジニア(工学)とデザイナー(感性)の融合、恊働が進むためのきっかけになったのではないかと思います。

 最後に、今回のイメージ写真である時を音で知らせる鐘楼になぞらえて、ガウディのサグラダファミリアが完成したときに、どのような音(曲)を奏でるのか、カリヨンを工学的にシュミレーションした映像を流して締めくくりました。