「JID AWARD」は、2021年3月~6月の間、公式ウェブサイトで公募を行った。応募条件をクリアした206点を審査対象とし、ウェブ上に登録された資料に基づいて第1次審査を行い、現地審査や現物審査を行う第2次審査を経てゲスト審査委員の参加を得た最終審査で、大賞1点、インテリアスペース部門賞3点・入選7点、インテリアプロダクト部門賞4点、NEXTAGE部門賞10点の作品を選出した。
JID AWARDとは
「JID AWARD 2021」は昨年に引き続き、新型コロナウィルスの影響下での開催となりましたが、感染対策などを行った上での現地審査・現物審査を行い昨年大賞を受賞された「アリイイリエアーキテクツ」の有井淳生さん、入江可子さんをゲスト審査員として招き、インテリアスペース部門162件、インテリアプロダクト部門20件、NEXTAGE部門24件の応募の中から、無事に厳正な審査を行うことができました。1958年に活動を開始した「公益社団法人日本インテリアデザイナー協会(」ID)」は1969年に「JID協会賞」として日本のインテリアデザインの質と認知度を高めるため、優れたデザイン作品や関連活動の表彰を始めたのが「JID AWARD」のルーツであり、半世紀以上の歴史あるAWARDとなります。
全体講評
JID理事長 丹羽浩之
(ヴォイド代表)
「JIDAWARD」の大きな特徴として「インテリアスペース部門」は2次審査へ進んだ作品は審査員が「現地」を直接訪れ、その空間を体感するという、他のAWARDにはない特別な審査方法を採用しています。また「インテリアプロダクト部門」では「現物」作品を送っていただき、審査をするという方法を採用しています。応募された作品の多くはコロナ渦の前から計画されていたものも多いと思う。しかし、なぜか、コロナ後の世界を意識したかのようなインテリアスペース作品、インテリアプロダクト作品が多いと感じた。「人と人の繋がり」「人と社会の繋がり」で生まれる多様な「関係」や「空間」や「機能」それらが緩やかに変化し、重なり、その隙間からまったく新しい空間を創出するような「空間感覚」。この時代だからこそ表面化してきたインテリアデザインの可能性と重要性を再確認することができたAWARDとなったと感じた。
選考委員長 米谷ひろし
(TONERICO: INC. 代表、多摩美術大学教授)
気が付くとデザインが希薄になっているような気がする、つまりデザインが特別ではなくなったということ。昨年の大賞作品は、機能的で簡素な中に、空間における自然体を感じさせた。それは「多くを求めないこと」で共感を呼んでいたし、何よりも時代の要請を察知していたと思う。今年の作品のそれは「それなりに多くを求めていた」ようにみえる。特に大賞作品はそのことが強く印象に残った。リモートワークが増える中で、一石を投じるリアルデザインだと思う。デザインに王道があるかといわれると、多様化した今となっては該当する言葉さえ見当たらない、つまりデザインが希薄になっているとはそのことだろう。しかし今回の大賞作品は、目的に対する妥当性とは別次元の、空間が発する求心性が最も強かったと思う。
大賞 Grand Prix
ZOZO本社屋
中村 拓志 高井 壮一朗 鈴木 健史
(中村拓志&NAP建築設計事務所)
上田 昭彦 田附 岳夫 成山 由典
(竹中工務店)
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[審査講評]
ファッション通販サイト「ZOZOTOWN」を運営するzozoの新本社。通常オフィスの顔となる空間にデザインが集中する事が多い中、このオフィスはほぼ全てが執務スペースで社員に開放されている。南北方向約30mに渡り無柱化され、最大8mの天高を持つ空間に3層のスキップフロアの執務スペースは、外部空間迄繋がり、極めて居心地が良い。また、クライアントが目指す着心地の良い服、布地の持つ柔らかさ等を象徴するかの如く内部から外部に展開する3層に重なる木格子が生み出すデザインは、このオフィスにリズムや光のグラデーションを生み出している。更に、シンボルマークが象嵌されたスクリーンやカーペット、天童木工とコラボした家具、壁面に同化したスウィッチ類に至るまでのディテールも工夫されている。勿論アートのセレクションも見事である。ここまでデザインされた空間を観るのは久しい。出来る事なら此処で生き生きと働く姿を是非観たい。その時このオフィスデザインの真の価値が浮かび上がる。(近藤康夫)
インテリアスペース部門賞 Interior Space Prize
2人のワンフロアハウス
谷口 幸平
and to建築設計事務所
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[審査講評]
緑豊かな地方の戸建て住宅に住む高齢の婦人が、車での移動が困難になり、趣味の美術館巡りに便利な都心に知人と共に移住することを決意。選ばれた高層マンションの室内側には大きな断面を持つ柱型が出張っていたが、設計者は、柱型の室内側に可動式ガラス面を巡らせ、外側の固定ガラス面との間に生まれた空間に多様な鉢植え樹木を配置した。その結果、外部からの視線を遮り、豊かな木漏れ陽を楽しめる緑豊かな生活空間が生まれた。隅々に至る細やかな気遣いも素晴らしい。
(清水忠男)
インテリアスペース部門賞 Interior Space Prize
釜浅商店
吉田 昌弘 石井 嘉恵
(株式会社KAMITOPENー級建築士事務所)
長沼 幸充(長沼アーキテクツ株式会社)
西澤 明洋(株式会社エイトブランディングデザイン)
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[審査講評]
合羽橋に位置する包丁など料理道具の店として100年以上の歴史を持つ店「釜浅商店」、日本の技術の美しさが際立つ道具としての包丁が並ぶ空間は美しい。店内は研ぎ澄まされた金属と使い込まれた枕木の木材、石のように見える樹脂のまな板など種々のマテリアルが持つ色のグレートーンでまとめられている。100年以上続いている老舗ゆえの歴史が刻まれた日常品の素材が新しい空間デザインを生み出している。その空間に展示された道具は見る人の心を捕え、購買力に繋がるのかもしれない。(川上玲子)
インテリアスペース部門賞 Interior Space Prize
トヨタ紡織グローバル本社
長谷川 寛 石黒 紘介 杉森 大起
(竹中工務店)
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[審査講評]
企業理念を建物でいかに表現し、伝えるのかという課題に、メインアプローチに樹木を育む「杜」、エントランスに空間自体を技術のアピールの場とした印象的な展示スペース、イノベーションプラザの吹抜けには「発想の繭COCOON」を浮かべ未来へ向けた象徴としてディスカッションスペースが浮かぶ、デザインが技術の高さと表現の豊かさを表している。「杜」を望む南の窓には建物の象徴的な縦糸と横糸を織るように作られた遮熱装置が眺望を遮らない様に配置され、快適な空間を作っている。自然採光や自然の風を機能的に取り込んでおり、環境共生配慮を各所で感じられる。(木辺智子)
インテリアプロダクト部門賞 Interior Product Prize
、-TEN- 限りなく小さな茶屋
加藤 忠弘
BORDERLINE+古矢 渉
BLS
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[審査講評]
1.35m x 1.35m x 0.65mに収められたカウンター機能を生かして、日中はテイクアウトと対面で日本茶の提供、日が落ちると日本酒を提供する茶屋。一つの什器にシンク、作業台、カウンター、照明などの諸機能を収め、狭いながらも快適さを損なわず、コンパクトに集約されるエレメントの開発。ミニマムな空間にプロダクトデザインとしてまとめた多機能カウンター。茶屋ごと店内から屋外へ移動できる機能など、これ迄の店舗設計の概念を越えた発想である。(喜多俊之)
インテリアプロダクト部門賞 Interior Product Prize
Lei Non-Electric Aroma Diffuser
SOL style
菅原 敏
アントビー株式会社
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[審査講評]
電源を必要とせずロウソクの熱で発電し、プロペラでアロマを空間に送る。昨今の自然エネルギー利用について、このような小さな取り組みから価値観は変わっていく、つまり人の心を動かすのは、いつも些細な日常からだと。このプロダクトを観察してみると、必然的なことで決定された結果をみることができる。火の熱を効率的に上昇させるガラスシリンダーは、ロウソクの灯りをプリミティブなものとして、日常に癒しと安息を取り戻す手段を語りかけてくれる。(米谷ひろし)
インテリアプロダクト部門賞 Interior Product Prize
Band Sofa
脇坂 政高 八田 興 (wah)
日本財団パラリンピックサポートセンター
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[審査講評]
このBandSofaは、東京2020パラリンピックのパラアリーナで使用されたものである。多種多様な障害者・健常者に対応(色彩、素材、スケール、フォルム等の吟味)がなされているところが優れている。車椅子のために、テーブルの斜めに折り込んだフォルムは何気なく処理されていて気持ち良い。日本の折り紙を思わせる。又、複数のソファーとテーブルの組合せが可能となっていて、いろいろな場に対応し、環境・雰囲気を作り出せるところも良い解答である。(小宮容ー)
インテリアプロダクト部門賞 Interior Product Prize
バイオエタノール暖炉「エコスマートファイヤー”KAN”」
志賀 洋公(株式会社メルクマール)
MAD Design Group
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[審査講評]
居間の暖炉を囲み、暖かい炎の色を見つめながら人々が思い思いに時をすこ‘している、という風情は、伝統的な暖炉の素材や造りから重厚なイメージを伴いがちだが、この暖炉は植物を原料とするバイオエタノールを用い、燃焼時に煙や煤を排出しないため、煙突が不要で、どこにでも設置できる簡便なもの。それでいて、黒一色、シンプルにまとめられた造形には格調があり、インテリアスペースを引き締めてくれるだろう。安全性に関する配慮も十分なされており、心を寄せられる。
(清水忠男)
NEXTAGE部門賞
審査講評
提案・試作作品を表彰するネクストエイジ部門賞だからこそ、私たちは挑戦的であるかどうかをクライテリアとして審査を行いました。MINAMOshadeは、照明器具のようでもあり、鏡のようでもある、既存の空間言語にはない要素を空間の中に違和感なく挿入し、外部と内部の関係を揺ざぶる大変美しい作品です。DARUMAは椅子という身近な家具を素材や工法から疑い、ーから思考した意欲的な作品で、形の説得力についてはもう少し踏み込みたい部分はありますが、思考を掻き立てられる、発展性が感じられる作品でした。(有井 淳生 入江 可子)
NEXTAGE部門賞 NEXTAGE Prize
有井 淳生賞
MINAMO shade
宇那木 麻衣(一級建築士事務所 club Mai architects)
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NEXTAGE部門賞 NEXTAGE Prize
入江 可子賞
DARUMA
加々美 洸介
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NEXTAGE部門賞 NEXTAGE Prize
O table (zero table)
田中 千絵
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keio-kairai
相本 卓也
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Movement 静と動
李 豪(多摩美術大学環境デザイン学科)
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FUSA -製品の用途と価値を変えることで生まれるブロダクトデザインの研究-
屬 史春瑠
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T-chair
山下 開靖
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ombre オンブル
永田 爽寧
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Curved Flow Chair
古川 博之(九州大学芸術工学部工業設計学科)
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Utakata
氏家 実咲
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インテリアスペース部門入選 Interior Space
[審査講評]
今年の入選作品は7作品であるが、その他にも優れた作品が多く、様々な環境や条件に対しての解釈と、解決策に見ごたえがあった。JID AWARDは現地審査を実施することが最大の特徴であるが、言うまでもなく現地を見た上で最終の評価となる。部門賞が3作品ということで、惜しくも選考から漏れてしまった7作品は現地での持続的な価値が認められ高い評価を集めた。その差は僅差ともいえるし、その違いを考えることに意味があり、そこからあらたなデザインが見えてくるように思う。(米谷ひろし)
デジタルガレージPangaea
デジタルガレージ
竹中工務店
Snøhetta
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今伊勢の家
川本 達也(川本達也建築設計事務所)
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はつせ三田
井原 正揮 井原 佳代(ihrmk)
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ウェスティン都ホテル京都チャペルリノベーション
香取 武則 羽原 ふみ(香取建築デザイン事務所)
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TAKENISHI TERRACE
田中 悠希 榎本 亮祐 (YRAD)
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水舟の通り土間
児玉 哲也 児玉 さやか(KADAー級建築士事務所)
渡瀬 育馬 内海 大空(Dugoutarchitects)
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Shoto S
大野 力 宇佐見 盛二 (sinato)
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2021.11.25