JID AWARDとは
「JID AWARD」は、1958年に活動を開始した「公益社団法人日本インテリアデザイナー協会(JID)」が1969年に「JID協会賞」として日本のインテリアデザインの質と認知度を高めるため、優れたデザイン作品や関連活動の表彰を始めたのがルーツであり、半世紀以上の歴史があるアワードです。
今年は昨年に引き続き、新型コロナウィルスの影響下での開催となりましたが、 感染対策などを行った上での現地審査、現物審査を行いました。昨年大賞を受賞された「ZOZO本社屋」の中村拓志&NAP建築設計事務所 中村拓志さんをゲスト審査員として招き、 「インテリアスペース部門」「インテリアプロダクト部門」「NEXTAGE部門」3部門合わせて212作品の応募の中から、無事に厳正な審査を行うことができました。受賞作品は、公式ウェブサイトで発表するとともに、受賞作品展でパネルによる展示が行われます。
全体講評
JID理事長 丹羽浩之 (ヴォイド代表)
「JID AWARD」の大きな特徴として 、「インテリアスペース部門」は2次審査通過作品は審査員が「現地」を直接訪れ、その空間を体感するという他のAWARDにはない特別な審査方法を採用しており、本年も26作品を審査員が現地へ伺い、写真や図面では分からない空気感やディテール、作品のストーリーを感じ厳正な審査を行いました。また「インテリアプロダクト部門」では「現物」作品を送っていただき、審査員が触れて、使って、審査を行いました。応募された作品の多くはコロナ渦の状況を乗り越えた後「空間の持つ機能の多様性」や「空間と空間の緩やかな重なり」を表現しようとした作品が多く、既成の領域概念に変化を促すような意欲的なデザインを感じ取れました。今まで閉ざされていた「人と人の繋がり」や「人の営みと自然との繋がり」を再定義し空間が行動を規定するのではなく、緩やかに変化する価値観に寄り添えるような余地のあるデザインは、これからのインテリアデザインの可能性と重要性を再確認することができたAWARDとなった。
JID AWARD 2022 審査員
ゲスト審査委員
中村 拓志 (中村拓志&NAP建築設計事務所)
JID 選考委員会
川上 玲子 (フォルムSKR取締役、北欧建築・デザイン協会 会長、選考委員)
喜多 俊之 (プロダクトデザイナー、大阪芸術大学教授、選考委員)
木辺 智子 (インテリアデザイナー、株式会社フォーラム 取締役、選考委員)
小宮 容一 (インテリアデザイナー、芦屋大学名誉教授、選考委員)
近藤 康夫 (インテリアデザイナー、近藤康夫デザイン事務所代表、選考委員)
酒井 浩司 (SIA代表、国士舘大学理工学研究所フェロー、選考委員)
清水 忠男 (共生環境デザイナー、千葉大学名誉教授、選考委員)
米谷 ひろし(TONERICO:INC.代表、多摩美術大学教授、選考委員長)
丹羽 浩之 (ヴォイド代表、JID理事長)
(敬称略/あいうえお順)
大賞 Grand Prix ・中村拓志賞
Ripple
西 毅徳
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[審査講評]
自然界にあふれる、光や風の現象を取り入れた建築空間作品である。垂木と薄い合板で構成された仮設空間は、自然に蛇行したかのような緩やかなカーブを描いている。それらが連続する構造には、計算された隙間が設けられ、内部に光と空気が染み込んでいくようだ。薄暗い空間の上部からはパイプを通し、光の輪が雫のように差し込み、風の動きによって揺れながら変化する様がまさに波紋(Ripple)のようで美しい。 この作品は仮設の建築エレメントを用いて光の操作を行い、そこに現れた空間を通して、根源的な場所性を示している。自然界から強固に仕切るのではなく、この閉ざされた内部のようで外部のような空間は、その場所に身を置いた瞬間、もしくは蛇行しながら進んでいく中で、外界のざわめきを静かに印象付ける。ある特定の用途や目的のためではなく、無目的であることが、唯一無二の空間として強烈に印象に残った。 最終審査において、NEXTAGE部門での「中村拓志賞」と、大賞受賞のダブル受賞は初となる快挙であった。 (米谷 ひろし)
インテリアスペース部門賞 Interior Space Prize
北海道地区FMセンター
本井 和彦 垣田 淳
(株式会社竹中工務店)
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[審査講評]
亜寒帯気候における非住宅木造のプロトタイプを目指したオフィスである。内部に微気候空間を作り出す温熱入れ子構成を半透明のファサードで包み込み、開放的な中間部をワークプレイスとしたことで、中心部の安定した執務環境を実現している。道内で加工できる小断面一般流通材のカラマツ集成材を用い、3.64m×4.55mスパンを実現したダブルティンバーを開発している。循環型社会を背景に材料のリサイクル・ダウンサイクルも計画され、それが見事に視覚化された空間である。 (米谷ひろし)
インテリアスペース部門賞 Interior Space Prize
歳吉屋-BYAKU Narai-
常賀 茂樹 美島 康人 吉本 晃一朗 長谷川 裕馬
(株式会社竹中工務店)
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[審査講評]
古い宿場町の廃業していた酒づくり事業を再興し、建物と敷地を活かして、旅館、レストラン、大浴場を併設し、観光客や地元住民の利用に応えて行こうとする計画。八つの客室は、既存の建築の複雑な配置や構造を活かして、それぞれ個性的な空間となっており、古い蔵や醸造場を改装したレストランやバーも、魅力的な場となっている。土壁内部の素材や仕上げを積極的に見せたり、木質部を地元の伝統的漆技術によって仕上げたり、大浴場の壁面に地元産の木材を用いるなどして醸成された独特の雰囲気が飽きさせない。 (清水忠男)
インテリアスペース部門賞 Interior Space Prize
三菱ケミカル株式会社 Science & Innovation Center 本棟
伊藤 琢 大野 友則 北澤 諒 大坂 高敬
(株式会社竹中工務店)
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[審査講評]
新しい機能を持った研究施設とオフィスを、古い建物を改修した福利厚生施設と結び、両者の間を通るケヤキ並木を透明屋根によって被い、人は2階部分に設けたクロスロードにより往き来する。人々は、自然と交感しながら、ひらめきを生み育てることになる。半屋内の床面に置かれたユニークな形状のベンチも同社製。多様でデリケートな表情を持ち、内部もLEDチップの配置による自由な照明演出となっている。心癒される楽しい空間が、研究心や創造性を喚起する極めてレベルの高いデザインと言えるだろう。 (清水忠男)
インテリアスペース部門賞 Interior Space Prize
土間が廻る住まい
野田 歩夢(株式会社groove agent)
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[審査講評]
この住居は典型的な分譲マンションのリニューアルブロジェクトである。デザインの特徴は空間を仕切る壁が殆ど存在せずに住まいを構成してこの住居は典型的な分譲マンションのリニューアルプロジェクトである。デザインの特徴は空間を仕切る壁が殆ど存在せずに住まいを構成している事、つまり限り無くワンルーム空間である。プランの特徴は作者が一筆書きの様に配置した土間と呼ばれる動線部分になる。居間等のスペースとは30センチの段差があり、この差が空間を仕切り、また各々の空間における視線の高さも調節し、拡がりのある空間を創り出している。また「お寺に住みたい」と言う要望が反映され和のモチーフが多く使われているがクライアントとデザイナーのセンスにより全体が仕上がっている。 (近藤康夫)
インテリアプロダクト部門賞 Interior Product Prize
HALF ARM CHAIR / ARM CHAIR
小沢 敦志(OZA METALSTUDIO)
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[審査講評]
きゃしゃで美しいフォルムのこの椅子は、実際に座ってみるときゃしゃなイメージから大きくイメージが違う。座り心地も良く、安定感があって実にしっくりと感じるのである。鋭利に見えるアームの先も触ってみると丸みが絶妙で触り心地が意外に良いのである。作品コンセプトに「張りやしなりを活かして人体と馴染む曲面を微調整」とあるが、人体に馴染む美しい仕上がりの椅子である。 (木辺智子)
インテリアプロダクト部門賞 Interior Product Prize
KIBAN LIGHT SERIES
伊東 裕 劔持 良美(SOL style)
水田製作所
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[審査講評]
電子機器に使用されるプリント基板を応用した照明器具は配線コードの必要性がない照明シリーズとして非常に爽やかで美しさを感じる。プリント基板の銅箔を使用することにより非常に薄く軽いにも関わらず重厚感を感じるデザインでもある。また、使用する時間を重ねることで銅箔の経年変化による色を意識した自然思考でありながら現代的な発想のデザインとの組み合わせは心地よいデザインを生み出している。 (川上玲子)
インテリアプロダクト部門賞 Interior Product Prize
Pekkle Chair
落合 将紀(merge furniture)
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[審査講評]
ブナ材の木目とペーパーコードによる椅子は、アヒルをモチーフにしている。無垢材を削り出し生まれたラインと座面から背もたれまで適度なクッション性、通気性にも優れたペーパーコードを編んで生まれる曲面によって、くちばし、首、おしりを表現している。また、「座り心地がよく、静かに存在感を放つ椅子」をコンセプトに、背もたれと座面の形状は、自動車のシートを参考に腰から背中を自然に支え、太ももを圧迫しにくい工夫がされている。リズミカルにさりげなくディテールにエッジを効かせることで、緻密でありながら、軽やかで心地よい印象のプロダクトだと思います。 (酒井浩司)
インテリアプロダクト部門賞 Interior Product Prize
思い出ベンチ
恩多みんなのベンチ設置委員会
東村山市 相羽建設 小泉 誠(Koizumi Studio)
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[審査講評]
優れた点が有ります。まず、伐採した樹木の再利用は、SDGsの#15「陸の豊かさを守ろう」です。再利用は、木霊に対する敬意・優しさです。地域の人々を巻き込んだプロジェクト(伐採、 製材、デザイン、制作、資金寄付など)は、「モノ、コト、ヒト」が一体となった作品で、SDGs#12「つくる責任つかう責任」にフィットしています。ベンチは「思い出のベンチ」であると共に「愛されるベンチ」「持続するベンチ」となるでしょう。等々、部門賞に相応しい作品です。 (小宮容一)
インテリアプロダクト部門賞 Interior Product Prize
Branch
後藤 充裕(mitsuhiro gotoh architects)
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[審査講評]
なんとも不思議なデザインである。用途は宮城県の伝統工藝品「こけし」を展示する為の什器との事。枝を伸ばす様に90ミリ幅の地場産広葉樹3種類を使用し設置場所にフレキシブルに対応する事が可能となる。しかし観ていると華奢なイメージが不安でならない。細い2本足、可動のためのシンプルなディテール、とても単体では成立しなそうな佇まい、見れば見るほど不安ではあるが複数のパーツが集まってくると枝を伸ばした寄木細工の様な不思議な魅力「不安定の安定」が感じられる作品である。 (近藤康夫)
NEXTAGE部門賞
審査講評
空間やプロダクト作品は、野心的なコンセプトと現実の狭間から産み落とされる。このNEXTAGE部門は試作段階の、いわば半作品を表彰する稀有な賞であるが、溢れ出る理想や思いの強さを感じさせる未来の種が数多く見られた。その中で「Ripple」は自然現象のノーテーション(表記法)を開発し、プロダクト化・空間化したもので、モックアップと共に美しい空間映像に心打たれた。実空間として作りきっており、そのまま大賞へと駆け上がっていったことも納得である。「揺響-yuragi-」はスピーカーの役割を音と水という不可視のメディアの空間化に拡張させており、是非製品化にトライしてほしいと感じた。 (中村拓志)
NEXTAGE部門賞 NEXTAGE Prize
揺響-yuragi-
入山 聖
(多摩美術大学 環境デザイン学科)
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ehana
佐々木 誉士(東京藝術大学大学院 美術研究科 デザイン専攻 第3研究室 Time & Space)
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Sharpener
久米 菜々子
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cross
西原 海(KaDO)
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Rocking horse
松橋 孝之(株式会社天童木工)
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ワイヤレススピーカー”tueks”(チュークス)
松尾 瑛人
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marple chair
稲井 まりん
(多摩美術大学 環境デザイン学科)
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澄まし
湯沢 実友希
(多摩美術大学 環境デザイン学科)
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Puddle
古城 龍児 小畑 俊洋(STUDIO MOUN)
荒木 康佑(XYZstructure)
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COCOON
齋藤 将太
(武蔵野美術大学工芸工業デザイン学科)
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Aromas Blocks -香りのする柔らかな積み木-
藤井 誠(ディノーム)
森庄銘木産業株式会社
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YU-RA
武藤 琴音 平城 裕隆
(team.YU-RA)
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インテリアスペース部門入選 Interior Space
[審査講評]
現地審査の26作品は優れた作品が多く、毎年のことだが現地に赴いた審査員の熱弁もあり絞り込みも難しく感じられた。今年の入選作品8作品であるが、建築の構造と一体になったインテリアが大変美しい作品や、工夫を凝らしたうまいリノベーション作品、アートのような空間を作り上げた店舗等、住宅が暮らしと共に変化する「溶ける建築」は施主と設計者の思いがうまく溶け合った面白い取り組みとなっている。出来上がりが完成でなく使いこなされて美しく感じるそのような作品が選ばれている。
(木辺智子)
NIPPON SHINYAKU – KOKU
池田 励一(株式会社 REIICHI IKEDA DESIGN)
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溶ける建築
浅井 裕雄 吉田 澄代(裕建築計画)
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徳島木のおもちゃ美術館
藤原 洋平(Fy design studio) 渋谷 大輔(Studio Syncroll)
谷川 絢一(たにがわ建築設計合同会社)
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蒲田のヘアサロン Re;tsugi
上野 正明 飯田 拓哉(株式会社バチスカーフ)
横山 俊平(株式会社横山俊平デザイン事務所)
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常泉寺新位牌堂
宮本佳明(株式会社宮本佳明建築設計事務所)
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丁子田の家
川本達也(川本達也建築設計事務所)
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パーク ハイアット ニセコ HANAZONO チャペル
戸井 賢一郎 大橋 怜史(日建スペースデザイン)
加々美 亜土 千葉 美幸 石井 誉子(日建設計)
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THE RAYSUM
久保 秀朗 都島 有美
(株式会社久保都島建築設計事務所)
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2022.11.05