JID AWARDとは
「JID AWARD」は、1958年に活動を開始した「公益社団法人日本インテリアデザイナー協会(JID)」が1969年に「JID協会賞」として日本のインテリアデザインの質と認知度を高めるため、優れたデザイン作品や関連活動の表彰を始めたのがルーツであり、半世紀以上の歴史があるアワードです。
昨年「大賞+中村拓志賞」を受賞された「Ripple」の構築家/現象創造家、東京藝術大学大学院の西 毅徳さんをゲスト審査員として招き、「 インテリアスペース部門」「インテリアプロダクト部門」「NEXTAGE部門」の3部門合わせて、昨年よりも1割ほど多い234作品の応募があり、厳正な審査を行いました。
受賞作品は公式ウェブサイトで発表するとともに、西新宿にあるリビングデザインセンター OZONEにて受賞作品展を行います。
全体講評
JID理事長 丹羽浩之 (ヴォイド代表)
「JID AWARD」の大きな特徴として「 現地審査」「現物審査」があります。「インテリアスペース部門」は2次審査通過作品は審査員が「現地」を直接訪れ、施主やデザイナーから設計コンセプトなどの話を聞きながら、その空間を体感するという他のAWARDにはない特別な審査方法を採用しており、本年も25作品を審査員が現地へ伺い、写真や図面では分からない空気感やディテール、作品のストーリーを感じ厳正な審査を行いました。また「インテリアプロダクト部門」2次審査通過の13作品を「実物」作品を審査員が触れて、使って、審査を行いました。応募された作品の多くはコロナ禍後の人々の意識の変化が現れた作品が多かったと感じます。「働き方の変化」「生活スタイルの多様化」「社会問題への問題意識」これらの多様性や変化に「インテリアデザイン」の力によって対応していく「空間と空間の緩やかな重なり」によって「インテリアデザイン」による「機能」の規定を明確としない表現をした作品も多く、既成の領域概念に変化を促すような意欲的なデザインを同時に感じ取れました。また、本来の「インテリアデザイン」に求められる「人々を包み込む」という空間デザインの中で創り上げられる独特の「空気感」や「豊かなデザイン性」が、人々の「エモーショナル」な部分に働きかけ、その行動をも誘導するような本来の「デザイン」に課された使命を強く意識された個性的な作品も多く見受けられました。「人と人の繋がり」や「人の営みと自然との繋がり」を再定義し、緩やかに変化する価値観に寄り添いながら生まれる新しいインテリアデザインの可能性と重要性を再確認することができたAWARDとなったと感じています。
JID AWARD 2022 審査員
ゲスト審査委員
西 毅徳 (東京藝術大学博士後期課程建築研究領域 構造研究室 美術博士)
JID 選考委員会
川上 玲子 (フォルムSKR取締役、北欧建築・デザイン協会 会長、選考委員)
喜多 俊之 (プロダクトデザイナー、大阪芸術大学教授、選考委員)
木辺 智子 (インテリアデザイナー、株式会社フォーラム 取締役、選考委員)
小宮 容一 (インテリアデザイナー、芦屋大学名誉教授、選考委員)
近藤 康夫 (インテリアデザイナー、近藤康夫デザイン事務所代表、選考委員)
酒井 浩司 (SIA代表、国士舘大学理工学研究所フェロー、選考委員)
清水 忠男 (共生環境デザイナー、千葉大学名誉教授、選考委員)
米谷 ひろし(TONERICO:INC.代表、多摩美術大学教授、選考委員長)
丹羽 浩之 (ヴォイド代表、JID理事長)
(敬称略/あいうえお順)
大賞 Grand Prix
Concrete Log House
井川 充司 南原 良祐 ( IKAWAYA建築設計 )
[審査講評]
都内有数の住宅地に建つこの住宅は敷地の有する特徴を最大限に活かしている。北、東2 面に接する角地に対しL 字型に配置された住居は大きな中庭を生み、西側隣家の緑、その先に拡がる森に繋がっていく。シンボルツリーのシマトネリコにはツリーハウスが設置され、外部の回遊動線により屋上まで繋がる。中庭を囲む様に配置されたリビングは70センチ段差が設けられ、中庭芝生面に近づく。さらにダイニング、そして半屋外空間のアウトダイニングに繋がる空間は、何より開放的で心地良い。内部のマテリアルの選定、階段等の細部に至るディテールは丁寧な仕事と共に上質な空間を作り出している。さらに、この住宅のもう一つの特徴はコンクリート打ち放しの外壁であろう。半折した丸太を使用した型枠が造り出す立体感は微妙な陰影を生み、この住宅の表情を豊かにしている。その上、この丸太は磨き直され中庭の塀、地下の音楽スタジオの仕上げ材として再利用されている。全てのデザインの調和と美しいおさまりが豊かな時間、空間を生み出した素晴らしい作品と言える。(近藤 康夫)
インテリアスペース部門賞 Interior Space Prize
FUJIFILM Creative Village
富士フイルム デザインセンター
青木 耕治 小林 智行 鄒 琳 小副川 玲奈(コクヨ)
東畑建築事務所
[審査講評]
デザインを活用した経営手法を実践し社会課題解決に向けた革新的な製品やサービスを生み出していくことを目指した空間である。デザイン部門の80名全員の参画・共創を通じて、建築を構成するあらゆるプロダクトデザインに関与している。カーボンニュートラルの実現を目指し、空間を大胆かつ贅沢に使った構成は、創造性を刺激し、研ぎ澄まされた緊張感が漂っている。まさしくデザインに「没頭」できるデザインの拠点であると思う。 (酒井 浩司)
インテリアスペース部門賞 Interior Space Prize
石桜邸 SEKIOUTEI
宮島 照久 大石 卓人 藤 晴香( 株式会社竹中工務店)
[審査講評]
緩やかな坂道を上がっていくと、樹齢80年の立派な桜の木が出迎えてくれる、閑静な住宅地に建つオーナーのワークプレイス兼ゲストハウスである。室内はアートコレクションや様々な空間エレメントと、絶妙なバランスで成立している。そこには外部も含めた空間の連続性と、それらを巧みに繫ぐ「余白のデザイン」がされている。要素が詰まっている全体性に対して、それを持たない「空白の領域」が存在していることに共感した。 (米谷 ひろし)
インテリアスペース部門賞 Interior Space Prize
上水沿いの家
小林 敏也 ( ことこと設計室)
[審査講評]
一目見ただけで、良い住宅だなぁと感じた。東南角地、南側は玉川上水遊歩道と旧五日市街道に面している。外壁と一体化した塀に開けられた家型の建具を通過した処がエントランス。中に入るとガラスで仕切られた土間が続き、その奥にホームオフィスが広がる。更に垂直方向に繋がる内部の構成はいわゆるスキップフア。 セカンドフロアに上がると外部の道路は全て目線からは隠れ、上水の緑だけが目に入る。とにかく気持ちよく居心地が良い空間に仕上がっている。また、マテリアルの微妙な差を上手く使い構成された壁面や収納等は、ローコストでありながら清々しいデザインで纏まっている。第一印象で感じた通りの作品だった。 (近藤康夫)
インテリアプロダクト部門賞 Interior Product Prize
LINE Seed JP Table
LINEヤフー株式会社 デザイン統括本部
(旧:LINE株式会社 LINE CREATIVE CENTER)
[審査講評]
明確なコンセプトのもとデザイン制作されたプロダクトである。リリースされたフォント「LINE seed JP」を美しいデザインでテーブルの脚に装飾しており、LINEオフィスのエントランスに常設し空間でもプロモーションを行うことを目的としている。現物を確認できなかったがステンレス天板が浮いているように見え、間接照明により文字のシルエットが浮かび上がって際立つ、ぜひ実際の現場で見てみたいと思った作品である。 (木辺智子)
インテリアプロダクト部門賞 Interior Product Prize
Sail – armchair –
小柳 貴英 ( COYA Fine Furniture )
[審査講評]
まず目を引いたのは、シンプルな中に研ぎ澄まされた美しさを感じたところです。この作は、量的に使用が少ないといわれている飛騨地の地域資源であるナラ材を活用しており、地域産業の活性化にデザインが寄与しています。自然材である木の木目を生かした染色による美しさとペーパーコードによる座の肌触りは、心地よさを醸し出すとともに椅子の軽量化に一役買っているといえます。 (川上玲子)
インテリアプロダクト部門賞 Interior Product Prize
ダイニングテーブル・ウマアシ
伊藤 洋平 (八王子現代家具工芸学校)
[審査講評]
実物作品は、天板の杉板(東京多摩産材)の柾目と色合いが調整されていて軽やかで美しい。また、断面の内側へのカットも良い。作者が強調する「金具などを使わず天板をのせるだけでテーブルとなる馬脚」は、確かに杉材を使う家具では、接合部に苦労するもので、乗せるだけの処理は理に適っている。曲げ成型合板のX型のウマアシの造形は、独自の合理性を持つも、少しコミカルで、本物の「馬の脚」にも繋がって楽しい。 (小宮 容一)
インテリアスペース部門・インテリアプロダクト部門 入選
[審査講評]
室内において人が介在する場所(部屋)のことを居室と呼ぶ。室をとった「居」一文字で意味を調べてみると、「腰を落ち着けて住む」「腰を下ろす、すわる」「普段の様子」「いながら、じっとして何もしないさま」などであった。この文字はたとえ条件は異なっても、評価基準における命題のひとつといえるのではないかと思う。あらためて入選された作品をみていると、そのどれもが「居」を実現している。人が介在し、普遍的な日常の連続に対する提案である。本アワードの特徴である現地・現物審査によって、実際に現れているかどうか審査を進め、それに優るリアリティは無いということなのか、最終審査では多くの議論が生まれる。例年であれば入選はインテリアスペース部門から多く選出されているが、今年はインテリアプロダクト部門からも選出された。これからも普遍的でありながら、既存の価値観を揺さぶるような作品を期待している。 (米谷 ひろし)
ゲスト審査員 西 毅徳 賞 Interior Space Prize
新柏クリニックおおたかの森
菅原 努 稲葉隆太 (株式会社竹中工務店)
[審査講評]
全作品を通し、一番心奪われたのが「新柏クリニックおおたかの森」でした。作品を拝見した時、点滴に繋がれベッドから見る無機質な天井が嫌だった自分の幼少期が回顧されました。今作品はその天井を詩的に扱うことで、外の気配を計算しつつダイナミックに感じることができます。使用者にとって、終わりを待つ時間が、光を楽しむ時間になれば素敵だと思いました。 (西 毅徳)
インテリアスペース部門入選 Interior Space
射和の家
原田 知幸
(原田建築設計舎)
雪ニセコ 客室
滝田 智美 内田 淳 辻 証子 三澤 直也
(フィールドフォー・デザインオフィス)
kasiki
干田 正浩
(株式会社MHAA建築設計事務所)
京急 EXホテル 札幌
山本 祥寛 遠山 義雅 田嶋 麻実 FF&E 宮田 祥子(株式会社日建スペースデザイン)
Spiral Gardens House
井川 充司 廣瀬 彩子 今田 夕稀
( IKAWAYA建築設計 )
インテリアプロダクト部門入選 Interior Product
bambi chair
松橋 孝之(株式会社天童木工)
TSUGITE
安田 喬
fan
古城 龍児 小畑 俊洋 (STUDIO MOUN)
NEXTAGE部門
[審査講評]
昨年の大賞が、NEXTAGE部門でのゲスト審査委員賞とのダブル受賞という快挙であったことも刺激となったようで、本年度のNEXTAGE部門の応募作品数は、昨年度の約1.4 倍に増加し、内容も幅広く、ユニークなものが多かった。割竹を用いた仮設ステージでの屋外演劇の上映や、ゆらぎや素材の微妙な味わいを提示し、見る人の目や心を魅きつける空間の演出や、トイレでの起居を助けるデザイン提案など、意義深い作品が光っている。 (清水 忠男)
NEXTAGE部門賞 NEXTAGE Prize
仰ぐ
黒原 真希
(多摩美術大学 環境デザイン学科)
竹箆舎- 割竹を用いた仮設舞台ステージでの野外演劇の上演-
原 良輔(九州大学大学院 人間環境学府空間システム専攻 末廣香織研究室)
R toilet
桐谷 菫(株式会社ワイ・ヨット)(多摩美術大学 統合デザイン学科卒)
還る石
西岡 遥穂
(多摩美術大学 環境デザイン学科卒)
mantis chair
千勝 菜津子
weave chair
高島 涼乃(多摩美術大学 環境デザイン学科)
めぐりまとう
中田 充咲
(多摩美術大学 環境デザイン学科卒)
ゆらぎ|SHIMMER
黄 綺樺(Huang Qihua)
(多摩美術大学 環境デザイン学科卒)
想刻
湯沢 実友希
(多摩美術大学 環境デザイン学科卒)
POLY-CHAIR
窪田 頼
(多摩美術大学 環境デザイン学科卒)
2023.11.22