― 地域活性化とインテリアデザイン ―
5月30日(金)16:30~18:30 リビングデザインセンターOZONEセミナールームAに於いて、主催:JID、企画・運営:北・東日本エリア特別プロジェクトチーム、企画監修:JID賞選考委員会、特別協力:(株)リビング・デザインセンターにより「JID賞デザインフォーラム2014 in TOKYO」を行いました。
フォーラム前には、プレゼンテーションパネルや模型展示を熱心にご覧いただきました。
総勢48名のご参加者を賜り終了を致しました。ご清聴まことにありがとうございました。
今回、それぞれのデザイナーチームによるプレゼンテーションは、デザインそのものの優秀さに加え、完成までのプロセスが良く理解出来る素晴らしい内容でした。
各プレゼンテーターの感想及びJIDよりデザイナーチームにクライアントへのインタビューによる下記の3つの質問を行いましたのでご紹介いたします。
質問1:この施設の計画、設計を依頼された時、あなたが担当の建築家やデザイナーに要望した重要なポイントは、どの様なことでしたか?
質問2:出来上がったデザインに対して、どの様な感想をお持ちですか?
質問3:今後この施設を用いて、その地域にどの様に働き掛けて行きたいとお考えですか?
第1部:受賞作品のプレゼンテーション-1
大賞受賞作品「扇屋旅館 扇屋カフェ(新潟県村上市)」
プレゼンテーター:大坪 輝史(6D)、安原 幹・日野雅司・北尾一顕(SALHAUS)、泉井保盛(+I DESIGN)
我々設計チームは、村上市という長い歴史によって作り上げられてきた地域性と、この村上市と共に80年もの歳月を経て扇屋旅館が作り上げてきたポテンシャル。
そしてローカルな駅前旅館としての新しい価値とはどういうものか?随分な時間をかけてオーナーと共に語り合いました。
結果的には既存のものをできる限り大切に残しながらも、思想として扇屋旅館のこれからに新しい価値を生み出す事ができたと確信していましたが、村上駅前とゆるやかに調和し、主張しすぎない佇まいになったので、正直、写真や言葉だけでは伝わりにくく評価されるかどうか半信半疑でした。
しかし、審査員の方々が遠方にも関わらず現地審査として適正に現場に来て、空気感を感じて頂いたことで大変名誉な賞を頂くことができました。
そしてそれが私たちにとって、あらゆる建築的諸問題にも真摯に答えていく事の大切さが間違っていなかったと再認識することができ、これからの仕事にも自信が持つことができました。
このような賞を受賞できたおかげには我々設計チームの他に、難解で複雑な既存建築の補強するにあたり、一つ一つ適切な構造計算をしていただいた長坂設計公舎の長坂健太郎様や、高い技術と丁寧な施工をしていただいた増田建設の増田豊様、増田寛之様など関わって頂いた多くの方々のご尽力の賜物です。この場をお借りして厚く御礼申し上げます。(6D 大坪輝史)
インタビュー回答者:扇屋旅館 扇屋カフェ(新潟県村上市)代表取締役 平間保智氏
回答1:これからの扇屋旅館を同世代の人たちと造り上げていきたいという想いで(オーナーは当時39歳)設計チームとの話し合いを続け、その話の中で、常連の宿泊客や慣れ親しんだ地元利用客を大切にする意味において、あまりスタイリッシュになりすぎず村上駅の駅前に馴染みながらも、新しい顧客獲得に向けて感度を高めていきたいという話を組み立てていきました。
回答2:自分は素人なので、話し合いを進めていく中でハード的な話だけではなく、ソフト的な点からもいろいろなアイデアを頂いて、新鮮に感じていたのを覚えています。結果として古いものと新しいものが絶妙なバランスで完成しとても満足しています。
回答3:今の時代、駅前旅館という業種が非常に難しい岐路に立っており、その中でもこれからの駅前旅館の新しいひとつのカタチが提案できたのではないかと思っています。県外客が利用する宿泊、地元客が日常的に利用する宴会場、そして観光客と地元客が混在するカフェ。これらの施設がゆるやかに交わる複合施設として中庭も活用しながら若者が集い、ひいては村上を広め、発信できる拠点として活用して欲しいと思っています。
第1部:受賞作品のプレゼンテーション − 2
インテリアスペースデザイン部門賞受賞作品「藤田歯科医院」
プレゼンテーター:川西康之・栗田祥弘・柳 辰太郎(nextstations)
この度は栄えある賞を頂き、誠にありがとうございました。私どものように浪花節的で泥臭いコミュニケーションの中から辛うじて着地した仕事が、たくさんお褒めの言葉を頂けるとは思っておりませんでした。
インテリアデザインの最先端を担われている先輩方が、日本の将来に深い憂慮を抱かれ、デザインが社会や地域にどうやって貢献できるかについて真剣に考えられていることに、私ども若輩者は勇気を頂戴しました。今後とも精進して参ります。
インタビュー回答者:藤田歯科医院(埼玉県越谷市)医院長 藤田融氏
回答1:歯科医院発としての地域住民全ての健康に寄与したいという想いをもっている当院が、WHOの健康の定義の中にもあるフィジカルヘルスとメンタルヘルスとソーシャルヘルスの3者へのアプローチが出来るようなデザインをと頼みました。
特にソーシャルヘルス、社会的なつながりや役割をもつ事の健康を建築デザインで上げやすいようには出来ないかと要望しました。また全ての住民にということから当院に来院出来ない地域住民をつなげる事が出来る仕組みをどう作り出すのかが重要なポイントでした。
回答2:ワンダフル!住民が健康に対して自律する一助として、診療ではなくても来院が出来るサロンを開ける場、自ら読み調べる事が出来るライブラリーの場、オープンなコミュニケーションが出来る開放的な待合いの場が出来上がりました。それらの機能とともに、美しい木目やライティングと天井の仕上げにより、やわらかくも凛とした美しい佇まいが出来上がりました。
回答3:みなさんのよりよい健康は自分1人のためではなく、周りのパートナーにも伝搬します。逆もまたしかりです。健康観の高い住民同士が地域にてつながりをもち、共生していくというのはより周囲と自己の健康を創る事になります。そんなオープンな感情を抱けるよう、地域での役割を遂行出来るよう、我々の治療においても閉鎖的ではなく自己開放をおこない、人生のしあわせにつながる健康の提案を行いたいと思っています。組織的に病気であるかないかという事ではなく健康観の高い人を街中でいっぱいにする事が一次医療機関としての真の地域医療の貢献と考えています。
第2部:トークセッション「いま求められる、地域とともに生きるデザイン」
コメンテイター
喜多俊之(JID理事長)
山田節子(JID賞特別審査委員)
岩倉榮利(JID賞審査委員)
コーディネーター
清水忠男(JID賞審査委員長)
トークセッションでは、このままの日本では危ない。ひどい駅前や街並みをどうにかしないといけない。そのデザインは地域の生活を創っているか?地域と共に生きるデザインとは?等々・・・
コメンテイターより警鐘が鳴らされる意見などが投げかけられ白熱したセッションでした。
○フォーラムに参加して
「JID賞ビエンナーレ2014」の受賞作品の中には、デザインそのものの優秀さに加え、地域活性化への積極的な働きかけの姿勢やプログラムの作成、実施が高く評価された作品が目立った。
そこで、今回のフォーラムは「地域活性化とインテリアデザイン」をテーマとして開催。
受賞作品のデザイナーたちによるプレゼンテーションには、楽しい工夫も盛り込まれ多いに盛り上がった。
印象的だったのは、いずれのチームもクライアントの意識の高さがあってのことと強調したことだ。
後半のトークセッションで、コメンテイターの方々も触れていたように、地域との繋がりを大事にしたというクライアントの意気込みをデザイナーたちがしっかり受け止め、優れたデザインセンスにより具現化していった点、またこれらの作品が、若い世代のチームによる成果であった点などに、インテリアデザインの今後の可能性を見て取れる思いがした。
JID賞審査委員長 清水忠男
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